ブレインストーミングを組織活動の中で活用しようと試みても多くの場合失敗しています。成功している組織は広告代理店や製品開発を専門にしているような業種に限られています。成功と失敗の差はどこからくるのでしょうか。
「ブレインストーミングとは?」のページでも書きましたが、よくわかっていないひとが分かったつもりで広めてしまい間違ったものがブレインストーミングと呼ばれている現状があります。
もっとも多い“なんちゃってブレインストーミング”は、「遠慮なくアイディアを出し合おう」と言ってフリートークで意見を出し、発言が尽きたところで終わりになるものです。
四大原則の「批判厳禁」は比較的守られています。
「質より量」は半分守られています。(質は問われていないが数が追求されているわけではない。)
しかし自分や他の人が出したアイディアをもとにさらに深く思考する時間はほとんど取られません。
これでは数も伸びるはずがありません。特別な天才的才能を持ったひとが参加していなければ奇抜なアイディアも望めないでしょう。
何よりも、人が集まった意味がありません。アンケートをまわして記入してもらうのと同じです。
次に多い“なんちゃってブレインストーミング”は原因分析のブレインストーミングです。
失敗やトラブルの原因さがしにブレインストーミングを使うケースが見られますが、ブレインストーミングの使い方としては間違いです。
原因とは現実に存在するものであり、新しく生み出すものではなく、探すものです。すべきことは現場、現物、現実を見て、フレームワークでもれなくチェックすること等です。地道な調査こそが有効です。
もし原因さがしにブレインストーミングを使ったなら・・・幽霊の仕業、宇宙人の仕業、ニャルラトホテプの仕業といった全く参考にならないアイディアでただただ時間の無駄になるでしょう!
しかし残念なことに、これらのなんちゃってブレインストーミングをブレインストーミングだと思い込んでブレインストーミングは役に立たないと思っている方がたくさんおられます。
つまり、失敗したブレインストーミングと思われていることのほとんどは、そもそもブレインストーミングの失敗ではないのです。
失敗の原因を説明する前に、そもそも成功とは何かを明確にしておかなければなりません。
ブレインストーミングの成功とは
@数多くのアイディアが出ること
A幅広い属性のアイディアが出ること
ではありません!!!
◆それらを基に今までにない新しいアイディアや課題の解決法が生まれることです。
間違ってはいけないことはブレインストーミングは『手段』であって『目的』ではないということです。
「問題を解決する」「新商品・新サービスを開発する」というような『目的』を達成するための『手段』のひとつなのです。
ブレインストーミングそのものが目的化してしまったことによる失敗が数多く見られます。
参加者が四大原則の本質を理解せずに行うなんちゃってブレインストーミングでは、当然多くのアイディアが出てくることはありません。
それでは画期的なアイディアも出てきません。
そこで何をしたかというと、アイディアが出てきやすいように工夫がなされました。
この工夫の中に本来の目的を忘れてしまったものが含まれていました。
そしてこれまた伝言ゲームのようにいろいろな書籍やサイトで紹介されてしまったのです。
例えば「ブレインストーミングには上司や経営陣(偉い人)を参加させない」というもの。
経験豊富な人や経営資源の限界を知っている人がいるとついついほかの人の意見を批判してしまうことと、発言するほうも普段自分を評価する立場にある人の前で下手なことは言えないので発言をセーブしてしまうとされるからです。
しかしこれは安直な逃げです。この逃げは恥なだけで役に立ちません。
本来は偉い人がいてもその人たちがブレインストーミングの本質を理解し、すべてのアイディアを受け入れる状況にしなければならないのです。ブレインストーミングの場において遠慮なくアイディアを出すひとが人事考課で評価されなければならないのです。
参加者を選定するのではなく参加者の意識を変えなければならないのです。
なぜならそもそも組織で参加者を選ぶことなどできません。そこにいる人間しか参加者に成り得ないことがほとんどです。
そしてそうでなければ仮に部下だけで行われたブレインストーミングからとても素晴らしいアイディアが出たとしても上層部に提案した段階で拒否されてしまうのが目に見えています。
他には「人数は多くても○人まで」というのもよく見られます。
確かに人数が多すぎるとそのうちによく発言する人が決まってきてしまい、(雰囲気的に)発言できない人が出てきます。進行役も大変です。
しかしこれは慣れの問題です。または進行役の技術の問題です。
人数は多ければ多いほど多くのアイディアが出て来るのは明らかです。
つまり問題解決の方法が全く逆向きなのが分かると思います。
後に書きますがブレインストーミングの成功には練習が不可欠です。
その時には少ない人数から始めるとしても慣れてきたら大人数でやるほうが必ず素晴らしいアイディアが出て来るでしょう。
「時間は1時間くらいが限界」というのもあります。
人間の集中力の研究結果などに基づいていたとしても、解決しなければならない課題がそこにあるのに解決策が見いだせないまま終わりの時間を決めてしまうのはおかしなことです。
経験的に1時間くらいでアイディアが出てこなくなってしまったのでこのようなルールが出来たのでしょう。
まずは1時間くらいでアイディアが尽きてしまうのは練習不足です。
そして独創的でこれは面白い(斬新)と思えるようなアイディアがいくつか出て来る前に終わりにするというルールにどんな価値があるのでしょうか。
課題に向かってあきらめないことが大切です。もし誰からもアイディアが出なくなり場が硬直してしまったら休憩をいれたり場所を変えてみたり、時には時間をあけて後日再開するなどが正しい方法です。
このサイトに書いたことも鵜呑みにしなくても結構です。いろいろな角度から疑ってみてください。いろいろなブレインストーミングに関する書籍、サイトを見る時に、そもそもブレインストーミングの目的は何だったのかを念頭に置いておきましょう。さまざまなアドバイスについて、それが目的を果たすためのものか、それとも単にブレインストーミング自体を盛り上げるためのものなのかを見極めなければなりません。
※何か一つ間違っていることがあってもその方が書いていることすべてが間違っているわけではありません。正しいこと、有益なこともあります。レッテルを貼ることも良くないことですので注意してください。
目的と手段が入れ替わってしまった理由がもう一つ考えられます。
それはブレインストーミングが「発想」ではない別の目的で使われることがあるからです。
ブレインストーミングには新しいアイディアを出すこと以外に素晴らしい副産物があり、それを得るためにブレインストーミングを実施することがあります。
その時にはブレインストーミング自体が盛り上がることが重要であり革新的なアイディアが出ることにはそれ程こだわらなくてもよいのです。
ブレインストーミングの副産物は2つあります。
ひとつはチームビルディングです。
組織の中でのコミュニケーションの壁が取り払われることにより人間関係のトラブルを減らすことが期待できます。人の悩みのほとんどが人間関係であることを考えるとこれは大きなことです。悩みがある状態では本業に集中することなどできません。
また、誰がどんなことに詳しいのかがわかることでちょっとした課題解決がスムーズにできるようになります。それぞれの得意分野が明らかになるとその分野で仕事を任せられ、期待され、期待に応えることで仕事にやりがいがうまれることでしょう。
もうひとつは個人の人としての魅力向上です。
前章で“聴くこと”について書きました。
コーチングの傾聴ではすでに信頼関係が崩壊している相手に対しては効果が期待できません。嫌いな相手の話を相手のために真剣に聴くなんてことはなかなかできません。
しかしブレストを練習していくと相手の話が自分のため活用できることに気付きます。相手が嫌いな人間だろうと敵であろうと自分のためであれば聴くことができるでしょう。
自分のためであろうと話を真剣に聴いているうちに相手を理解することが出来ていくでしょう。
相手は理由はどうあれ話を真剣に聴いてもらえるので悪い気はしないはずです。
聴く姿勢を身につけることであなたの魅力は格段に向上します。
これらの副産物を得るためのブレインストーミングが、本来のブレインストーミングの目的をゆがめるとともにおかしなルールを作り出してしまったと考えられます。
ブレインストーミングは誰でもすぐにできる・・・という風に思われがちです。
たった4つのルールを守ればよいとされるからです。
しかしその認識が誤りです。
ブレインストーミングは確かに誰でもできるようになります。
年齢も性別も関係ありません。
しかしすぐにはできません。
ワークショップ、タウンミーティング、社内の会議で、進行役の人に四大ルールを簡単に説明され、すぐに課題に取り組むことがよくあります。
このとき、参加者はルールの表面上の言葉しか見えていません。
そのルールがどのような理由で作られているかを理解していません。
それではうまくいかないのです。
まずは前章で書いたような内容を充分な時間をかけて説明することが必要です。
そして、本題にとりかかる前に練習が必要です。
練習を通じて本当にルールを理解し、実践できるようになっていなければうまくいかないのです。
近頃身の回りにあふれているものはユーザビリティ化が進んでいます。
ユーザビリティ化とは構造や仕組みを知らなくても簡単に使えるようになるということです。
今、このサイトを見ておられる方は目の前のパソコンやスマートフォンの回路がどのようになっていてインターネットの仕組みがどうなっているかを知っていなくても何の問題もなくこのサイトを見ることが出来ています。
インタフェイス(ユーザーがつかう画面などの見た目)のユーザビリティ化も進み、説明書を読まなくても直感で操作することもできるように工夫されています。
何が言いたいかというと、最近の風潮として面倒なことは無しにしてとりあえずやってみようという傾向があり、それを満たすサービスが重宝されているということです。
しかし、ブレインストーミングにおいてはこれは通用しません。
ルールを機能させるためには練習が必要なのです。
練習を通じて、四大原則をしっかりと理解しなければならないのです。
練習なんていらないと思う方はひとつ大事なことを忘れています。
ブレインストーミングは複数人でやるものだということです。
仮にあなたが出来たとしても他のメンバーもできるとは限らないのです。
ブレインストーミング成功のための必要条件その1は「参加メンバー全員がブレインストーミングを理解していること」です。
ブレインストーミングが成功している組織では日常的にブレインストーミングを実施しています。メンバーの熟練度が高いからこそ成功しているのです。
最近注目されている「ファシリテーション」という言葉をご存知でしょうか。
ファシリテーションの定義は確立したものはありませんが、「合意形成をうまく行い組織活動を円滑にする技術」といったような意味です。
語源となったfacilitateには「簡易化、促進、助成、助長、手助けする」という意味があります。
そしてこのファシリテーションのスキルをもっているひとをファシリテーター、略してファシと呼んだりしているようです。
定義も確立していなければ技術も確立していない発展途上のものなのですが、なぜ注目されるようになったかといえば、第1章で書いたように会議がうまく機能しないケースが増えているからです。ルールも前提もない会議ではうまくいかないので、会議のお作法を模索していく流れにあるのです。
そして世間一般で「ファシリテーター≒進行役」というゆるい認識が浸透してきているようです。
話をブレインストーミングにもどして、ブレインストーミングにおいてもルールの遵守や目的達成を推進するための進行役が必要です。
私は初め、ブレインストーミングのセミナーなどでこの進行役のことをそのままファシリテーターと呼ぶことにしていたのです。
しかし本家のファシリテーターの方が流派や研究組織によっていろいろなルール、制約を与えられてしまい誤解を招きかねない事態になってしまいました。(例えば、ファシリテーターは意見に対して中立でなければならない、構造化を念頭に置かなければならない等)
そこで、ブレインストーミングの進行役のことをブレインストーミングファシリテーター
と呼びたいと思うのですがいかがでしょうか。ちょっと長いですが致し方ありません。かっこいい略称があればご提案ください。
ブレインストーミングファシリテーターとは「ブレインストーミングがルールに従いアイディア創造という目的を果たすために、ブレインストーミングをコーディネートする進行役」ということにします。
前置が長くなってしまいましたが、ブレインストーミング成功のための必要条件その2は「良いブレインストーミングファシリテーターがいること」なのです。
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